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生活保護下回る最低賃金――安倍のセーフティネットの偽善性
【一面連載/ワーキング・プア――「絶対的窮乏化」は現実だ(5)】

 今回は最低賃金問題を取り上げよう。
 最低賃金とは、賃金の最低額を国が決め、それを下回る金額で雇うことを禁止したものである。この制度は非正規労働者を含め全労働者に適用され、生活の安定のためのセーフティネット(安全網)と言われている。
 日本の最低賃金は都道府県ごとに設定されており、時給の最高額は東京都の七百十九円、最低は青森、岩手、秋田、沖縄で六百十円、加重平均で六百七十三円である。週四十時間、月二十二日働いたとすると、十一万八千四百四十八円、年収二百万円を得るには年間三千時間も働かなければならない。
 この十一万八千円という所得は、東京、神奈川、大阪など大都市の十八〜十九歳単身者の生活保護費(生活費と住居費)を下回り、さらに県庁所在地の比較でも大半の都市で生活保護の方が高くなっている。
 生活保護はもともと働けない人の最低生活を保障するということで設けられたものであるが、フルタイムで働く人々がその水準すら確保できないというのは、資本の国家にとってゆゆしき問題である。労働者は働く意欲を失いかねないし、社会不安の原因になりかねないからだ。
 このため、安倍は三十九年ぶりの最賃法改正に乗り出し、所信表明で次のように述べた。
 「経済的に困難な状況にある勤労者の方々の底上げを図るべく、最低賃金制度がセーフティネットとして十分機能するよう、見直しを行います」
 そして三月に提出された改正案では、@決定に際し、生活保護との整合性に配慮する、A違反企業への罰金を労働者一人あたり二万円以下から五十万円以下に引き上げる、などが謳われている。
 だが、この改正案で労働者の最低賃金が大幅に引き上げられるとか、セーフティネットが十分に機能して労働者の生活が保障されると期待することは出来ない。
 まず、改正案そのものが「整合性に配慮」するだけであって、生活保護レベルを明確に上回ると規定しているわけではない、全く曖昧なままだ。都市部の生活保護を切り下げて「整合性」を保つことも可能である。生活保護と同じかそれをわずかに上回る水準に最低賃金を設定されたとしても、生活保護レベルそのものがギリギリの最低生活であり、それで労働者の生活が十分に保障されるなどということはあり得ないのだ。
 罰則が強化されたが、労働基準監督官の数が圧倒的に少なく、滅多に摘発されることはない。最低賃金を下回る労働者はそのほとんどが非正規労働者であるが(パート女性や若者の一割以上と言われている)、告発したとたんに解雇されることも珍しくない。ほとんど摘発されないことを知っている確信犯の企業にとっては、この程度の罰則強化は痛くも痒くもないだろう。
 そして政府の説明も不真面目なものだ。
 民主党などが要求する「時給千円以上」に対し、柳沢伯夫厚生労働相は「時給八百円でも中小(企業にとって)はきつい」と発言し、安倍も「最低賃金制度を抜本的に引き上げることは、経営が圧迫される結果、かえって雇用が失われる面もあり、非現実的だ」と衆院代表質問で答弁している。
 どちらが本当なのか。最低賃金を引き上げ、最賃制がセーフティネットとして十分機能するようにする。しかし、抜本的な引き上げは出来ない、経営を圧迫してはならない……。同じ人間の主張とはとても思えない。
 企業側の代表者の一人である日本商工会議所・労働小委委員長代理の池田朝彦は、もっとはっきりと次のように述べている。
 「最低賃金の引き上げは経営に多大な影響を与え、雇用を確保できなくなるおそれがある」、時給千円など「常識では考えられない」「もし最低賃金を千円に引き上げれば、より高い賃金層からの引き上げ圧力がかかり、企業経営が持たない」、と(五月十七日『読売』)。
 要するに、最賃制の引き上げと言っても、企業の経営を脅かしてはならないということであり、それをふまえて最賃制の引き上げも「現実的」にやっていかなければならないと言うことである。連中には、労働者の生活を真剣に「配慮」するつもりなどはじめからないのである。資本や政府にとって、セーフティネットとしての最低賃金制など、労働者を欺き、ごまかすための一つの方便にすぎないのだ。
 かつては、最低賃金に近い水準で働く人の大半が女性パートとアルバイトの若者で、夫や親の所得があるので、賃金が低くても生活に困らないだろうと見なされてきたかもしれない。だが、今では女性や若者の半分が非正規雇用であり(また未婚率や離婚率が上昇する中で)、本人の賃金だけで食べていかざるをえない人々が急増している。彼らの多くは最低賃金をわずかに上回るレベルに集中しており、年収二百万円以下で生活保護と同じ水準にあえいでいる。
 最低賃金が生活保護を下回るような状態を放置すれば、社会不安や階級対立の激化が避けられないものとなっているのだ。安部の最低賃金とセーフティネットについてのおしゃべり(ごまかし)は、階級矛盾を深化することはあっても決して解決することはできない。
(山田明人)
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