| 『偽装請負――格差社会の労働現場』朝日新聞特別報道チーム |
| 2007-7-3 16:12 |
キヤノンや松下の偽装請負
――聞いて呆れる「人間尊重」の経営哲学
『海つばめ』第1046号2007年7月1日
朝日新書から『偽装請負――格差社会の労働現場』という本が出ている。キヤノンや松下電器といった日本のトップ企業が、実態は派遣労働であるにもかかわらず、「請負」を偽装してきた(している)ことを暴露している。
派遣と請負の違いは、一言でいうと派遣労働者は発注企業の指揮命令に従うが、請負労働者は請負企業の指揮命令の下に働くということである。正社員でなく、外部の企業から人材が導入される点では違いはないが、派遣の方は一年後(昨年三月からは三年後)に正規雇用の申し出をしなければならなくなったので、こうした制約を企業は避けるために派遣でなく、請負を採用するのである。。
本書によりながら、キヤノンや松下の「偽装請負」の実態を紹介しよう。 キヤノンは日本経団連の会長御手洗富士雄が会長を務めるが、九〇年代の不況をくぐり抜けてきた「勝ち組」企業の一つである。九三年以降、御手洗が副社長、社長として人事戦略を統括し、請負労働者を積極的に活用してきた。
〇六年末時点の請負と派遣労働者の状況を見ると、同グループで働く製造関連の請負労働者は半年前より三千人減って一万二千人、派遣労働者は五千人増えて一万二千五百人になった。さらに〇七年三月時点では、製造請負労働者は八千四百人となり、製造派遣の労働者は一万三千人に増えた。製造に直接関わる正社員ら直接雇用の労働者は七千人ほどなので、その三倍もの請負・派遣労働者を利用していることになる。
本書では宇都宮工場(二千五百人の従業員のうち請負が六割)、大分キヤノン工場(七千人のうち五千人)、茨城キヤノン化工筑波工場などが取り上げられているが、ここでは労組が結成され、その偽装請負が問題になった宇都宮光学機器事業所の場合を紹介しよう。
宇都宮光学機器事業所は、半導体露光装置(半導体をつくる精密機械)を製造しているが、そこで働く二十人余りの労働者が昨年十二月個人加盟の労組を結成し、正社員化を要求している。
彼らはすでに同事業所で、何年も働いてきた。〇四年に製造業派遣が解禁され、一年後には企業は正規雇用の申し出をしなければならなくなってからも、放置され続けた。彼らは〇五年三月に請負会社を退職して派遣社員にされ、さらに〇六年五月に再び派遣から請負にもどったが、仕事場も仕事内容も同じまま雇用主が変わっただけであった。
キヤノンで働いて十年になる大野は次のように主張している。
「これからも世界一のレンズをつくっていきたいのですが、派遣、請負、派遣と勤務形態をころころ変えられては、仕事に集中できません。正社員になれるかなれないか分からない状態で働き続けています。是非キヤノンは自分たちの気持ちをくみ取り、正社員にしてほしい」
「私たち請負、派遣の労働者は生身の人間です。正社員と同じ仕事をしているのであれば、同じ賃金をもらいたい。安心して子供を産みたい。子供に十分な教育を授けたい。育ててくれた親の面倒も見たい。そして、自分自身も社会に貢献しながら幸せな老後を送りたい」
彼らの要求は、余りに当然でささやかなものであるが、キヤノンは「請負」契約をしているのであって、直接の雇用関係はないと団体交渉の要求を含めてすべてを拒否したままである。
もちろん、実態が「請負」契約であるなら、キヤノンの言い分にも一つの根拠があるかも知れないが、機械も設備もキヤノンのもの、正社員と請負労働者が同じ職場で正社員の指揮命令の下に働いている以上、キヤノンの主張にはどんな正当性もない。要するに安くて使い捨て自由の労働者を法の眼をかいくぐりながら、徹底利用しているということでしかない。
御手洗の経営哲学は「人間尊重」ということであるが、白々しいかぎりである!
松下電器(グループ三十三万人、創業者松下幸之助は「家族的な経営」を掲げていた)の“脱法行為”も紹介されている。大阪茨木市の「松下プラズマディスプレイ株式会社」(松下PDP)では一千五百人の従業員が働くが、そのうち直接雇用は半分以下である。
〇六年五月に派遣労働者に対し、「請負」に戻すとともに、松下社員を請負企業に出向させることが明らかになった。こうすれば、現場で社員が請負労働者に指揮命令しても(請負会社内部のことで)偽装請負には当たらないというわけだ。
さらに出向社員の給料は請負会社から支払われるが、実は松下が請負代金に給料分をまるまる上乗せしていることも明らかになった。本書は次のように告発する。
「これでは、出向は形式的なものと言わざるをえない。企業で行われている出向は、子会社やグループ企業間など資本関係がある場合が一般的だ。今回のように資本関係がない企業間で行われる場合は、技術を学んで恩恵を受ける請負会社の側が出向社員の給料を負担すべきではないであろうか。社員の給与全額をも松下が払っているとすれば、『技術指導』という名目に疑問符がつくうえ、出向を主導しているのが松下側ということを示唆しているのも同然だ」
松下PDPは、実態は派遣でありながらなぜ請負にしたのかという問いに、一年後には雇傭を申し出なくてはならないなどの問題が出てくる、「右肩上がりはいつまでも続かない。事業は水物で、変化に対応できる体制にしないといけない」、請負の方が人員整理しやすいと説明している。
しかも、松下PDPはこうした処理は大阪労働局も承認済みだと主張したが、労働局の方は相談を受けた覚えはないと言い張った。この問題は、大阪労働局のメンツもあり(労働局も脱法行為に荷担したという批判を回避したい?)、大量出向は職安法違反に当たるとの判断が出たが、やれることはなんでも利用しようという資本の本性が見て取れる。
他にも兵庫県で工場進出に伴い九十億円の補助金(設備投資額は二千八百億円)を手にしたり、鹿児島のパナソニック半導体工場での偽装請負が暴露されている。
本書は、実態は派遣でありながら、請負を偽装する資本のあくどさを暴露するが、同時に限界も指摘しておきたい。つまり、派遣法違反を暴いてはいるが、法令遵守ならいいのか、という問題である。むしろ告発されるべきは、偽装請負にとどまらず、請負だ、派遣だと労働者に雇用差別を持ち込み、不安定な労働と生活を強いている資本の支配そのものであるということだ。
本書は法律違反にこだわるだけに、その裏返しとして資本の体制に対する認識の甘さが随所に顔を出していることを最後に指摘しておきたい。
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